「幸福大国ブータン」という本を読んでいます。
第4代ブータン国王の王妃ドルジェ・ワンモ・ワンチュックによって書かれたブータンの国と歴史を紹介する本です。
国民総生産GNPよりも国民総幸福GNHを優先すると世界に高々と宣言したブータンに関しては、高校の英語の教科書でも紹介されていて、私もつねづね興味を抱いていました。
確かに16歳で即位して早々にこのGross National Hapinessの理念を国内にも国際的にも表明したブータン第4代国王ジクメ・センゲ・ワンチェックは、稀に見る高い資質を兼ね備えた君主のようです。
君主の中には、後世優れた君主とうたわれる名君は何人もいます。
でもたいがいはあくまでも君主であり、国王を頂点とした絶対王政的な君主でした。
ブータンの場合は父第3代国王の治世から国王の権限縮小をめざし、この第4代王はさらにそれを進め、国王65歳定年制という新憲法を自ら草案し、それすら待たずに2005年に51歳で譲位し、さらには今年2008年新春には、長年めざして来た立憲君主国家の完成をめざして最初の総選挙を実現させました。
王を信頼し議会政治などいらないと言う人々を、一人一人国王自ら説得して歩いたという記事を私も年頭に読んだ記憶があります。
この本によると、戴冠後すぐの「ブータンの発展および進歩の指針、尺度は、国民総生産ではなく、国民の総幸福である」とした王の声明は、世界から懐疑的に受け止められました。でも30年後の今日、GNH政策は寿命、教育、医療、環境等の分野で大きく成果をあげ、いまや世界の新しいモデルとなっているそうです。
かえりみると今の世界はどうでしょう。地球温暖化、環境破壊、格差問題といった経済優先の弊害に世界中があえいでいます。
なのにブータンは30年以上も前から世界の過ちを反面教師とし、環境保全政策を実施してきました。
国土に占める森林の割合は60%を下回らないこととした法律の制定。
ダムは建設せずに川の落差を利用した水力発電は収益率が高く、国家歳入の40%を占めるほど。
必要以上の開発はしないという概念が、実際にも大きな成果をあげているのです。
そしてふと思い出すのは、かの国バイエルンの王ルードヴィヒ2世。
ルードヴィヒ2世も、父王の急死のために若干18歳で即位。
第4代のバイエルン王というのも第4代ブータン王とよく似ています。
18歳でしっかりした帝王教育も大学教育も受けずに即位したルードヴィヒ2世も、最初は理想を実現しようと執務に徹底して取り組んだようですが、名宰相ビスマルクが指揮する大国プロシャの台頭という当時の激動のヨーロッパの中で、軍隊と戦争を嫌うルードヴィヒは次第に孤立していったようです。
そんなルードヴィヒ2世の孤立感と虚無感もわからないではないですが、第4代ブータン国王が徒歩で国中を回って国民の意見を聞いたという姿とどうしても比べてしまいます。やはりルードヴィヒ2世は、王には生まれるべきではなかった王。
そして第4代ブータン国王は、ブータンに生まれるべくして生まれた王。
二人とも世界でも稀に見る美貌の王。
(第4代ブータン王のハンサムぶりは有名ですが、息子の第5代ブータン王もなかなかです。)
でも二人の資質と運命は、あまりにもかけ離れたものでした。
kiho
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